女性泌尿器科疾患
女性泌尿器科疾患とは
骨盤臓器脱(POP)および腹圧性尿失禁(SIU)は女性特有の下部尿路症状です。これらを正確に診断し、病態により最も相応しい治療法を選択するためには特定の検査が必要です。
当院では特に“女性外来”の時間(月曜日午後3時以降:要紹介予約)を設定し、対応しております。
骨盤臓器脱(POP:Pelvic Organ Prolapse)
【骨盤臓器脱(POP)って?】
女性の骨盤内にある子宮、膀胱、直腸などが下がって、膣から外に飛び出す病気です。下がってきた臓器によって、膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤、膣断端脱などと呼ばれ、それらを総称して骨盤臓器脱と呼びます。
- 膀胱瘤
- 子宮脱
- 直腸瘤
- 膣断端脱
自覚症状としては、異物感(何かが降りてくるような感じ)、腰痛、重い感じ、引っ張られる感じ、排尿困難、排便困難、さらに重症化すると排尿や排便のために脱を整復する必要がある場合もあります。また、急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢ができずに頻回にトイレに行ったり、間に合わずに漏れてしまう(切迫性尿失禁)こともあります。通常寝ている時は脱が引っ込んでいるため、夜間や起床時の排尿はスムーズですが、長時間の立位後、歩行後、あるいは午後になると症状は強くなります。入浴中にピンポン玉のようなものを陰部に触れることで気づく場合もあります。
【原因は?】
骨盤の底には子宮、膀胱、直腸などの臓器を支えている筋肉(骨盤底筋群)があり、腹圧により臓器が骨盤外に出ないように支えています。この支えがお産や加齢により緩み、子宮や膀胱、直腸が骨盤の中から膣に下がってくるのです。いつも重い荷物を持っている方、肥満体型の方なども骨盤臓器脱になりやすいといわれています。
【診断方法は?】
まずは問診と内診台での診察を行います。骨盤臓器脱の種類や程度を確認します。
排尿状態を確認するための尿流検査や残尿測定、尿流動態検査、膀胱鏡などの検査を行います。
また、当院では立位CTによる骨盤臓器脱の評価も行なっています。
【治療方法は?】
脱落した臓器の摘出や位置を修正するとともに、伸びきった骨盤底筋群を全体的に考えて補強する必要があります。
-
1.保存的療法
【ペッサリー療法】
膣内に円形の軟性化合物でできたリングペッサリーを留置する方法で、補助的な矯正器具であり根本的な治療方法ではありません。
違和感、膣の炎症、出血や帯下の増加が起こるため3ヶ月ごとの定期的な交換が必要です。
高齢など何らかの理由で手術療法ができない人にお勧めします。 -
2.手術療法
【従来手術(膣式子宮摘除+膣壁縫縮術)】
膣より脱出してくる子宮を摘除し、膣壁縫縮します。
体内に異物は残留しませんが骨盤底筋群が元々弱いために再発する可能性もあります。【経膣的骨盤底形成手術(TVM手術)】
TVMとはTension-free Vaginal Meshの略で、骨盤臓器を力のかからない自然な位置に矯正し支える手術です。
膣前壁を切開し、膀胱後面に人工線維メッシュを挿入することで補強します。【下図のように、メッシュ(青色)を挿入します】
【仙骨膣固定術】
当科ではこの治療をおすすめしております。ポリプロピレンメッシュを用いて膣の断端を仙骨前面に固定することで骨盤底全体を挙上し固定する術式です。治療効果は高く、再発も比較的まれです。
手術の傷も小さいため術後の痛みも少なく、早期の社会復帰が可能です。
【当科における実績】
2005年から200名以上の患者様に施行されています。
腹圧性尿失禁(SUI:Stress Urinary Incontinence)
【腹圧性尿失禁(SUI)とは】
くしゃみや咳、重い物を持ったり階段を昇り降りするなど、お腹に力が入る時の尿漏れが腹圧性尿失禁です。腹圧性尿失禁は中高年女性の4人に1人に見られる症状です。
【原因】
尿道、膀胱などの臓器を支えている骨盤底筋という筋肉が、妊娠、出産、肥満、加齢によって弾力性を失いゆるむために尿が漏れやすくなります。
【治療方法】
-
1.保存的治療
骨盤底筋を強くする体操(骨盤体操)や薬を使う治療があります。
-
2.手術療法
重症の尿失禁は手術の適応となります。
【TVT手術・TOT手術】
膣からメッシュ状のテープを尿道の下に留置し、尿道を支えるようにします。お腹に力がかかってもこのテープが尿道を支えるため、尿漏れを防ぐことができます。
【当科における実績】
2003年から100名以上の患者様に施行されて尿失禁の3年非再発率は90%です。