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動物福祉WELFARE

従来実験動物は、”生きた試薬”、“生きた道具”として使われ、「物」として機械的に制御されてきた。 これに対し、”生きもの”としての権利を主張する考え方があり、近年実験動物に幸福、豊かさを求める考え方が大きくなってきている。

また、RussellとBurchが「人道的な実験技術の原則」の中で提唱した動物実験の「3R(Replacement、Reduction、Refinement)」は国際的に動物実験実施者が行うべき必要事項となり、法律的にも無視できない状況である。

5Freedom

動物福祉の基本概念の1つとして、世界獣医学協会(WVA)は動物行動学的知見に基づき、
 @飢えおよび渇きからの開放
 A肉体的不快感および苦痛からの会報
 B傷害および疾病からの開放
 C恐怖および精神的苦痛からの開放
 D本来の行動様式に従う自由
の5項目(5Freedom)を提示している。


環境エンリッチメント(環境の富化)

物理的および社会的環境の両側面を変化させることにより、動物本来の行動がとれ動物が幸福になるという考え方で、実験動物にも応用されている。しかし実験動物への使用にあたっては、実験目的および科学性も損なわない範囲での使用とする。
野生動物と実験動物の違い、科学上のニーズと整合性、異なる環境で得られたデータの信頼性評価が課題である。実験動物では、飼育技術者、実験実施者の影響のほうが環境エンリッチメントより大きいことを示すデータもある。


CostとBenefitの考え方

CostとBenefitの考え方:
個々の実験計画について検討する。
                  救命、QOLの改善
                      ↓
動物実験にあたってはCost(動物がこうむる苦痛)とBenefit(ヒトへの恩恵)を考えて実験計画を立てるべきである。

                  CostとBenefitの例
Cost  Benefit
神経毒力検定 安全なポリオワクチン
電極挿入による神経細胞の活性測定 パーキンソン病の治療薬
骨や筋肉の損傷 義肢の開発

実験計画立案にあたって、Benefitが大きい場合、動物の靴独活は大きくても苦痛を和らげる処置をすることによって動物実験が実施される場合もある。
動物の権利に関しては倫理哲学的論争が続いており、簡単に決着の付く問題ではない。しかし、その家庭で生まれたコスト・ベネフィット分析(動物実験により犠牲となる動物の数や苦痛の程度を、その実験により得られるであろう効果や利益と比較分析し、後者が前者を上回るばあのみ動物実験が許される)という考え方を推奨する動きがある。


3R(Replacement・Reduction・Refinement)

実験者は、試験管内(in vitro)や中枢を持たない下等動物の実験系への置換(replacement)、使用動物数の削減(reduction)、実験技術の洗練や制度の向上(refinement)について可能な限り実施することが、倫理的な動物実験の基本理念である。Refinementとして動物の苦痛を軽減するための麻酔、術後管理、馴化、安楽死の技術、侵襲性の少ない実験法への転換はとくに重要である。医薬品の安全性試験等では、動物個体ではなく培養細胞や無脊椎動物を用いる評価系、いわゆる代替法を開発することにより使用動物数の大幅な削減が達成できる場合もあり、重要な課題の1つである。

@「Replacement:置き換え」
 ・in vitroの実験系および系統発生的に下位の動物種への置き換えは可能か
 ・より侵襲の低い動物実験方法への置き換えは可能か

A「Reduction:削減
 ・使用する動物数の数を減らせるか
  数を減らすというのは単に数を減らすことではない、求める結果を得るための適正な数は必要である

B「Refinement:洗練
動物実験にあたっては、特に苦痛の排除と軽減に努力すべきである。
 ・動物実験の不要な繰返しになっていないか十分な文献調査
 ・実験開始前に動物を実験装置にならす
 ・ていねいに飼育/実験(保定、実験処置)を行う
 ・生態、習性に適した飼育環境を整備する
 ・保定や投与、試料採決などの実験手技習得
 ・外科処置に関する手技の習得
 ・苦痛の程度の予測と観察法習得
 ・麻酔剤、鎮痛剤を支障ない範囲で用いる
 ・実験の中断や終了の基準(人道的エンドポイント)の実施
 ・社会的に容認された安楽死処置技術の習得

*Refinement実施のためには、適切な指導者による教育・訓練が必要である。