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エンドポイントENDPOINT

無用な苦痛を動物に与えてはならないというのは、実験動物福祉の原点である。実験目的を損なわない範囲での苦痛の軽減処置(麻酔、鎮痛処置、沈静処置など)と、回復の見込みがない動物の安楽死処置が「動物の愛護および管理に関する法律」で規定されている。動物の保定など実験主義の洗練、動物を実験機器に慣れさせる訓練なども苦痛軽減の一環に位置づけられる。

人道的エンドポイント(Humane endpoint)

動物実験には、医薬品の安全性試験、病原微生物の感染実験、腫瘍学の実験、ワクチンの力価検定試験のように、動物の実験死が避けられないものがある。それに対して、動物の市を持って実験終了と判断するのは動物福祉に反するという意見があり、この考え方が発展して「人道的エンドポイント」という概念が生まれた。
「実験動物は、苦痛やストレスを必要としているはずはない」、 「実験計画を立てるにあたって、私たちは、研究・試験・教育に関わらず、動物への苦痛や不快、精神的緊張をできる限り軽減するよう配慮しなければならない」という意識が重要であり、現在では苦痛軽減方法の1つに位置つけられている。


動物実験における用語「エンドポイント」

・ 実験のエンドポイント:実験が計画通り行われデータが得られて実験終了
・ エラーエンドポイント:なんらかの異常/ミスのために実験データが得られず実験中止
・ 人道的エンドポイント(humane endpoint):実験動物を実験処置による苦痛から開放するため、実験を打ち切るタイミング(安楽死処置を施すタイミング)をいう。実験動物が死亡するまで実験を続けるような実験計画の設定(death as endpoint)に対比して使われる用語である。安楽死させる時期は専門家と協議して判断する。

① 動物実験は、安楽死処置をもって終了することを原則とする。
② 動物実験の最終段階において、あるいは鎮痛剤などでは軽減できないような疼痛や苦痛から実験動物を開放する手段として安楽死処置を行う(苦痛軽減法のひとつ)。
③ 人道的エンドポイントの設定に関しては、該当する国際ガイドラインを参照する。
④ 苦痛度の高い動物実験、たとえば、致死的な毒性実験、感染実験、放射線照射などを行う場合、動物実験責任者は動物実験を計画する段階で人道的エンドポイントの設定を検討する。

したがって、「動物実験では、実験実施の家庭で実験成果の有無にかかわらず、動物の状態により、設定したエンドポイントでは、苦痛を与える処置の中止、または、鎮痛剤などによる苦痛の軽減・排除または安楽死(予定した実験の最終処分としての安楽死ではなく)などを実施することとなる。
実験動物の“種”特有の様子を動物の観察により気づくことは重要である。
激痛があるはずであっても、げっ歯類、ウサギなどの動物は行動の変化を見せない場合がある。さらに緊張の変化は小動物では観察が難しい。したがってエンドポイントを設定するに当たり、観察者がこれらの動物ごとの特性を理解しておくことは必須である。

⑤ エンドポイント評価のための5つの観察項目
 a.体重減少(摂餌・摂水量の減少も含む)
 b.概観の変化(体位、姿勢、毛づ矢、立毛、etc.)
 c.測定できる臨床的サイン(心拍数、呼吸数、体温、etc.)
 d.行動の変化(動き回る、動かない、攻撃的、etc.)
 e.外部刺激に対する反応(音反射、接触刺激に対する反射、etc.)

エンドポイントの設定にあたり、動物への実験処置の影響が不明の場合小数の動物を用いて病的状態(反応)を観察するために、呼び実験が役に立つ。


一般的な実験でのエンドポイント

a 体重の減少(飼料と水の摂取量の変化の反映)は、動物の状態の重要なサインである。体重減少を対照群と
 比較し、一定の減少点(例:20%減)を定めエンドポイントすることができる。
b 低体温は、動物の全身状態悪化の重要な指標である。特定の実験の場合は、安楽死させる時期の指標として
 指定された体温まで下がる点(4-6℃低下)をエンドポイントとすることができる。
c 目やになどの分泌物の付着、全身被毛の汚れ・・・状態悪化で毛づくろいをしなくなるため、あるいは行動
 不活発のための排泄による汚れ・・・痛みの表現形
d 跛行または足を引きずる・・・痛みの表現形
e 体の一部をなめたり引っかいたりする・・・永続的自損行為による傷の発生・・・痛みの表現形
f 立ったり動いたりすることを嫌う・・・痛みの表現形
g 糞便や尿の排泄の仕方の変化・・・痛みの表現形
h 取扱者に対する態度の変化・・・攻撃的、逃げる・・・痛みの表現形


免疫の研究でのエンドポイント

a 投与部位に感染や潰瘍を起こしたとき:フロイントのコンプリートアジュバント(FCA)は、FCA以外のア
 ジュバンドでは免疫が難しい場合のみ使用し、小動物、ウサギのフットパットには科学的に正当な理由(細
 胞性免疫反応惹起)がない限り投与しない。投与が許されたときは片方のフットパットにのみ投与する。
 投与後4週間は少なくとも週3回投与部位の観察を行う。
b 免疫の処置により動物が苦痛、衰弱、脱水などの症状を示したとき
c 永続的自損行為による傷の発生・・・痛みの表現系


腫瘍の研究でのエンドポイント

文章を入力してください。
a 腫瘍重量が、マウス・ラットで体重の10%を超えたとき(例:マウスで直径17ミリ)腫瘍の塊は、正常
 な身体の機能を物理的に妨げる。それゆえ腫瘍は痛みにかかわるポイントや動きを制御する位置に摂取すべき
 でない。
b 腫瘍塊を考慮して、体重が対照動物の体重より20%以上減少したとき。
c 腫瘍部分の潰瘍化または感染がおきたとき
d 局所化された腫瘍が周囲の組織に転移したとき
e 永続的自損行為による傷の発生・・・痛みの表現形 文章を入力してください。


腹水採取のエンドポイント

a 苦痛、衰弱、脱水などの症状が見られたときとする
b 腹水量が正常体重の20%を超えたとき
 頻回の腹水採取は、感染症の危険や腹腔への出血などを起こす危険性がある。最終過程での腹水の採取は、麻酔
 下で行う。モノクロナール抗体産生のための実験では、げっ歯類を用いて腹水が採取される。腹腔内に摂取され
 た潰瘍の成長により産生される腹水の蓄積は体重の増加をもたらし、動物に苦痛を与える。


痛みを伴う実験のエンドポイント

手術・病態モデルの作成などの実験処置により苦痛の表現が強かったり長引く場合は、その時点がエンドポイントといえる。科学的必要上実験を継続する場合は、鎮痛剤の投与などの苦痛軽減処置を行う。
激痛があるはずであるのに、げっ歯類、ウサギなどの動物は行動の変化を見せない場合があるので、痛みの判定は難しい。これらの動物では普段の状態をよく観察しておき、処置動物の痛みの表現、姿勢を識別することが大切である。

a 急性痛の表現
・ 処置部を守ろうとしたり、逃げようとしたり、取扱者に噛み付こうとする
・ 動いたり、触れられたとき鳴く
・ なめる、噛む、引っかく、頭を振るなどの自損行為
・ 休みなく歩き回る、横になったり起き上がったりを繰り返す、体重をかける足を絶えず換える
・ 長く横になる、動くのを嫌がる、起き上がることが困難
・ 頭を下げている、腹部に頭を巻きつけるなどの異常姿勢

b 慢性痛および病気の時の表現
・ 体の一部をなめたり引っかいたりする
・ 跛行または足を引きずる
・ 立ったり動いたりすることを嫌う
・ 食欲の減退
・ 目やになどの分泌物の付着・・・毛づくろいをしなくなるため
・ 糞便や尿の排泄の仕方の変化
・ 取扱者に対する態度の変化


感染症モデル実験のエンドポイント

病原体侵入に対する免疫反応として好中球、マクロファージから放出されるサイトカインによる生態の変化がエンドポイントの指標となる。
a 体温の上昇は、げっ歯類では一時的かもしれないが、体温低下は動物の状態悪化の重要なインジケーターで
 あり、エンドポイントの指標となる。
b サイトカインの作用としての食欲不振から来る体重減少(マイナス10~20%)は、エンドポイントの重要
 な指標となる。体重減少の割合と減少の持続性がエンドポイント決定に使用される。
c 行動の変化(無気力/睡眠)
d サイトカインレベルの測定は、病気の過程の把握と療法への応答の評価として使用できる。
e 血液中の急性期蛋白質(APP)量の測定は感染と炎症の存在の指標となる。