I. 筋ジストロフィーを中心とした難治性神経筋疾患の新しい治療法の開発
ヒトの遺伝子解析から責任分子の同定は進んだものの難治性筋疾患である筋ジストロフィーには、いまだに有効な治療法は皆無である。筋ジストロフィーの治療法としては、(1)遺伝子治療、(2)細胞移植治療、(3)薬物治療が考えられる。当研究部門では、薬物治療や移植治療に取り組んでいる。薬物治療としては、マイオスタチンという骨格筋の増殖と分化を強力に抑制する分子に着目している。マイオスタチンを阻害すれば萎縮により失われた筋量を取り戻す効果があるため、有望な筋疾患の治療法の開発につながると考えられている。分子生物学、細胞生物学、タンパク質工学、遺伝子改変動物などの手法を駆使し、動物実験において筋量を増大させ、筋疾患の病態を改善し、病気の進行を遅らせる治療効果のあるマイオスタチン阻害分子群を開発している。最も患者数の多い筋ジストロフィーの病型であるDuchenne 型等のモデル動物を用いて、マイオスタチン阻害の治療効果の有用性を精査し良好な治療効果を得た。開発したマイオスタチン阻害マウスの詳細な表現型解析や分子生物学的解析を行った。マイオスタチン阻害により骨格筋量の顕著な肥大と体脂肪の蓄積の低下が見られた。骨格筋幹細胞である筋衛星細胞の数が増加も明らかにした。Duchenne 型筋ジストロフィーモデルのmdx マウスと交配し、大腿四頭筋、横隔膜の筋病理像が改善し、筋細胞の壊死が抑制されることを確認した。マイオスタチン阻害マウスの骨格筋組織で点状に染色されるマクロファージの数が増加することを明らかにした。マイオスタチン阻害療法を確立すべく、大量精製法、投与法、血中動態などを検討している。また、新たな筋量増大マウスを作出し、詳細な解析を行なっている。マイオスタチンノックアウトマウスを含め、数系統の筋量増加モデルを解析が進行している。細胞療法としては、II. で述べるが、間葉系細胞系譜の分化機構を明らかにし移植ソースとして用いる手法や脂肪細胞の起源の解明に関する研究を行っている。