No.sp-5-1

末梢血幹細胞移植とは
名古屋第一赤十字病院 内科
西田徹也
 造血幹細胞移植は、急性白血病や悪性リンパ腫などの腫瘍に対する強力な化学療法のあとに破壊された患者の造血組織を再構築したり、再生不良性貧血、先天性免疫不全症候群などの機能不全に陥った造血幹細胞や免疫担当細胞の組織全体を置き換えることを目的とした治療法である。すべての血液細胞に分化できる「多分化能」と自分自身を複製する「自己再生能」とを兼ね備えた造血幹細胞は、骨髄だけでなく、末梢血、臍帯血にも存在することがわかり、これらを造血幹細胞源とした移植が行われるようになってきた。

 末梢血には通常、造血幹細胞はごく少数しか存在しない。定常状態での末梢血単核球におけるCD34陽性細胞の割合は0.01%で、骨髄の1/100程度である。しかし、化学療法後の造血回復期やgranulocyte-colony-stimulating factor(G-CSF)などの造血因子を投与した後には、末梢血中に大量の造血幹細胞が動員されることが明らかとなり、また、その採取法が確立され、末梢血幹細胞移植(peripheral blood stem cell transplantation; PBSCT)が普及するようになった。

 自己末梢血幹細胞移植(auto-PBSCT)は、自家骨髄移植(auto-BMT)と同様、移植片対腫瘍効果による再発予防効果が期待できないため、幹細胞移植を併用した超大量化学療法と考えることができる。Auto-PBSCTは、auto-BMTに比べ、移植後の造血回復が速やかで、治療関連死が少なく、また造血幹細胞の採取に全身麻酔を必要としないなどの利点があり、近年auto-BMTに代わり急速に増加している。しかし、腫瘍細胞の混入の危険性があり、また移植片対腫瘍効果がないため移植後再発率が高く、今後、微少残存病変の検出およびその除去法の確立が必要である。

 同種末梢血幹細胞移植(allo-PBSCT)は、健常人ドナーに、G-CSFを投与することにより、末梢血幹細胞を採取し、移植する方法である。ドナーは骨髄採取に伴う全身麻酔の必要がなく、また同種骨髄移植(allo-BMT)より、速やかな造血回復が得られる。欧米ではこれまでに約3000例施行され、しかも非血縁者間allo-PBSCTも施行されている。我が国では、1998年9月までにallo-PBSCTは103例施行されている。その結果、移植後100日以内の移植関連死は14%と低いものの、gradeV以上の重症急性GVHDの発症率は16%とallo-BMTの7%に比して有意に高く、慢性GVHDの発症率も有意に高かった。今後、我が国でもallo-PBSCTが保健適応となり、普及していくと考えられる。

しかし、健常人ドナーに対するG-CSF投与の安全性、移植後長期にわたる造血能の維持や免疫学的再構築、GVHDの頻度、重症度などまだ明らかでない点も多く、今後検討の必要がある。