No.083

腹膜炎の起因となったPhotobacterium damsela の分離例
静岡市立静岡病院 臨床検査技術科
○杉本直樹 夏目敦子 川崎弘文
【目的】
 Photobacterium damselaは,VibrioからListonellaへ移属後1991年にPhotobacterium属の菌として承認された.1981年にLoveらが魚の皮膚潰瘍から分離したのが初報で,一般に人では創傷感染の起因菌として認識されているが分離例はきわめて少ない. 腹膜炎を発症した患者のCAPD排液よりその起因となった本菌を分離したので,概要を報告する.

【方法】
@分離状況:平成10年6月5日,腎不全の74歳男性が下腹部痛,悪寒を覚え受診し,腹膜炎の疑いにて入院.WBC:6400/μl,CRP:9.1mg/dl,CAPD排液中WBC:32.排液よりP.damsela hemolysis陽性株(3+),緑連菌(3+)が分離された.6月8日の排液培養はP.damsela hemolysis陽性株(1+),P.damsela hemolysis陰性株(1+)であった.6月20日退院.感染経路不明. 

A分離培地:TSAU5%ヒツジ血液寒天,BYチョコレート寒天,BTB乳糖加寒天,アネロコロンビアPEAウサギ血液/BBE寒天,GAM半流動寒天. 

B同定:VITEK120,バイオテスト1号,用手法は常法に従い実施.  

C薬剤感受性:センシディスク(判定基準は腸内細菌を代用) 

DTDH(耐熱性溶血毒),TRH(耐熱性溶血毒類似毒素),LT(易熱性 エンテロトキシン),ST(ヒト型耐熱性エンテロトキシン)の証明:PCR法(プライマー:宝酒造)

【結果】
 @入院時の排液の鏡検結果:GNR 3+,連鎖球菌 3+.
 Ahemolysis陽性と陰性の2種類のP.damsela,および緑連菌が分離された.
 BいずれのP.damselaも血寒の初代分離で直径3mm前後のコロニーを形成した(35℃,24時間).生化学的性状は定型で,VITEKの結果は相対確率99%を示し,バイオテスト1号のコードNoは 0455005であった.薬剤感受性はampicillin がI(中間)で,他の代表薬に対してはすべてS(感性).
  CTDH,TRH,LT,STの遺伝子は陰性.

【考察】
  P.damselaが腹膜炎の起因となった本例は本邦初の症例であると思われる.TCBS寒天での発育は悪く,本菌を分離するために選択培地を使用するのであればSS寒天を推奨する.進行性壊死の起因菌としての可能性を示唆する報告があるが,その病原因子を含め未知の部分が多い.hemolysis陰性株の報告がないことからhemolysisの差異が毒素に関連しないか調べたが,いずれの株も今回対象とした毒素遺伝子は陰性であった.

また,本株を菌種データベースにもつ各種同定キットで同定した結果,ごく一部を除き正しい結果が得られたことから,検査室レベルで難なく同定できる菌であると考える.

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