病理診断科標榜の決定を受けて
〜今、病理医がなすべきこと〜


堤 寛 Yutaka Tsutsumi, M.D. 
藤田保健衛生大学医学部第一病理学
教授、病理専門医 
e-mai:tsutsumi@fujita-hu.ac.jp


 2007年9月21日に開催された厚生労働省、医道審議会で、来年度からの「病理診断科」の標榜が提示された。医道審議会決定は覆ることがないので、あとは厚労省の政令整備を待つばかりの状態だといえる。(社)日本病理学会の長年の念願だった「病理診断科標榜」の実現は確かに喜ばしいのだが、逆に、大きな課題を背負ったことにもなる。

 「標榜科」は国民に対する広告として医療法に規定されている。いいかえれば、患者が訪れる科に変貌することが期待されているし、医道審議会のねらいもそこにあると思われる。当然ながら、診療報酬は標榜された「病理診断科」と直結すると思われるため、常勤病理医のいる病院における「病理診断科」の標榜は必須となるであろう。

 従来、病理診断科標榜は私たち病理医の夢であり、目標だった。しかしそれは、病理医の待遇・立場の改善のための努力目標、自分たちの都合に合わせるためだったともいえよう。しかし、これからは、国民・市民・患者に対する大きな責任が発生する。「いったい、病理医は国民に対してどのようなサービスを提供するのか?」つまり、国民にわかりやすい病理医、病理診断へと変身することが緊急課題となったわけである。

 そこで、私たち病理医は、平成20年度診療報酬改訂までに社会に発信すべき短期的目標、数年後までに行うべき努力目標に分けて、国民に対して提供できる病理診断サービスの中身を早急に公表・情報開示すべきである。

 病理診断科の標榜は、結果的に若い医師に「病理って面白い!」と思わせることにつながり、病理医のリクルート戦略にも適している。マスコミや患者を味方につけることも重要である。必ず応援してくれるだろう。だからこそ、まず、私たち自身が変わらねばならない。

《短期的目標》
1.病理外来の開設
 まず、日本病理学会のHPに既に掲載しているように、患者に病理診断の内容をわかりやすく説明する病理専門医の実践が求められる。

 病理医の診断業務の一環として、病院内における「病理外来」の開設が最重要である。病理外来は、週に1〜2回程度の完全予約制とし、原則として、自施設で診断した病理診断内容 ("ファーストオピニオン")を希望する患者に対して説明する場と捉えられる。

 真実をより詳しく知りたい患者だけが「病理外来」を訪れるため、病理専門医は、病理学的所見やそれから推測される事象を、ふだん通りに、ただし、わかりやすく説明すればよい。標本に再度じっくり目を通し、あらかじめ臨床医と連絡を密にする時間がとれるため、病理診断の精度が向上する可能性がある。

 病理外来では、遺族に対する病理解剖(剖検)の結果の説明も行われる。当然ながら、病理専門医の保険医登録が前提となる。

2.セカンドオピニオン外来への参画
 可能な範囲で、病理診断のセカンドオピニオンに応じることも病理専門医に求められよう。

  ただし、専門領域でない標本のセカンドオピニオンは難しいだろう。がん対策基本法では病院間での診療格差をなくすのが目標となっており、個人的な努力によるセカンドオピニオンの必要を極力なくす方略(例:複数病理医の参加による地区単位での中央診断システムの構築や日本病理学会コンサルテーションシステムの利用)が必要性を増すだろう。

3.病理診断科の開業に関する指針作成
 今後、病理診断科で開業ができることになると思われるが、そこでは、病理診断行為そのものにとどまらず、病理診断の説明、セカンドオピニオンのためのクリニック開設が必要となるだろう。「病理解剖サービス」を実施する場合の手順を含めた指針の作成が求められる。

4.病理診断に関与する病理学教室を臨床系に再編することへの提言
 多くの大学で、病理学教室はいまだ基礎系に位置づけられている。病理診断業務に深く関与する教室を臨床系に位置づけることが求められる。日本病理学会からの提言は後押しとなる。

5.衛生検査所の再編に関する指針作成
 病理診断科が標榜科となることによって、従来、臨床検査技師法のもとで実施されてきた衛生検査所(検査センター)における病理診断は、医療法の下での運用に変わる。

 したがって、病理医の常駐しない中小の衛生検査所は成立しなくなる。しかし、これらの検査所が現状で支えている開業医からの病理診断に支障をきたしてはならない。

 つまり、今後は、病理専門医が監督医あるいは経営者(開業医)として精度管理や運営にも直接的に関わることになるだろう。複数の小型検査所をまとめるような動きが求められる。

 病理医の単なる名義貸しは許されない。これを機会に、衛生検査所の病理診断の質を高め、サービスや質的向上の内容が国民にみえるようにしなければならない。そのための、指針・ガイドラインづくりが求められる。

6.「臨床検査科」との兼任・併任に関する指針作成
 今回、病理診断科と同時に、臨床検査科の標榜も認められた。一般病院では、双方を兼務している病理医が多い現実がある。臨床検査科も標榜科として、患者への検査方法や検査データの読み方に関するわかりやすい説明が求められる。そのためには、数的に少ない医師(臨床検査医)だけではとても無理があり、臨床検査技師自身も変わらねばならない。今まで以上に、検査結果に関して検査技師が説明するようなシステム改革("検査外来")が必要とされるだろう。検査技師の技術料、検査説明に関する報酬の明確化につなげたい。

 臨床検査医の資格をもつ病理医が両者を兼務するための基準や業務内容の改善に関して、日本病理学会と日本臨床検査医学会、日本臨床検査技師会、日本臨床細胞学会との間での早急な協議開始が求められる。

7.診療報酬改定に向けた提言
 以上のような、基礎となる活動(提言、指針作成など)を踏まえた上で、「病理学的検査」を「検査」部門から独立させて、「病理診断」としての別部門を新設することはもちろんのこと、病理診断料、検査技術料、病理外来・セカンドオピニオン外来での説明に関する診療報酬など、標榜科としての独自の診療報酬改定を早急に提言する必要がある。

《長期的目標》
8.穿刺吸引細胞診の病理外来での実施
 患者が訪れる科として、欧州で実践されているように、穿刺吸引細胞診の標本採取を病理外来で実施するようになるとよいだろう。

 幸い、新臨床研修制度の中で、若い研修医は麻酔科や外科を必ずローテイトしている。新医師臨床研修を経験した若手病理医に穿刺のためのトレーニングの場を提供すれば、このことは近い将来、実践可能だろう。

 ちなみに、鳥取県立中央病院の中本周先生によると、標本適正率(良質な細胞標本ができる確率)は臨床医で60%、病理医だと90%で、あきらかに標本の質、すなわち、医療の質が改善するという。

9.病理診断のための職能団体、特定非営利法人(NPO)化の検討
 以前、私、堤が日本病理学会企画委員会のアドホック委員会「病理医の職能に関する小委員会」で提案したような、病理診断の標準化、病理診断の質の向上に向けた病理専門医によるNPO法人「病理医支援研究会(仮称)」の設立を再検討してみてはどうだろう。

 衛生検査所の病理診断は必ずこのNPO法人を介して精度管理される。衛生検査所や試薬機器メーカーの積極的協力が期待される。診療報酬の一部がこのNPO法人に入る仕組みをつくれば、衛生検査所を介して行われる年間数百万件の診療報酬の一部がプールされ、(社)日本病理学会の会費値下げにも効果的である。この可能性につき、再度戦略を練ってほしい。

10.病理診断を超えた(医療の質の向上の実践者としての)病理専門医の役割の明確化
 医療の質を向上させる役割を演じやすい"doctors' doctor"としての病理医の役割を、努力目標として国民に明示することが望まれる。単に病理診断するだけでない、付加価値の高い病理専門医であることを国民に知ってもらいたいと思う。

 縦割りの医療制度の中で、横糸の役目を果たす病理専門医ならではの、客観性を生かした職務の明確化が強く望まれる。現在進行中の医療関連死のモデル事業に代表されるような、病理専門医の社会的役割を明確化する必要がある。国民に対する「病理解剖サービス」の可能性を模索する必要があるかもしれない。

 上に述べたようなさまざまな実践ができれば、「臨床医としての病理専門医」の存在が医療の質の改善につながることを国民に明確に提示し、"患者に顔のみえる病理医"がそばにいることを広く知ってもらうことは決して難しくないだろう。まず、患者のニーズ調査が必要となる。その上で、マスコミや患者団体へのアプローチを積極的に行う草の根的運動が求められよう。


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