クリプトコッカス髄膜炎. 分厚い莢膜がムチカルミン染色陽性を呈している。細胞外発育を示すクリプトコッカスは細胞サイズが大きく、莢膜の発達がよい。
検体の所有権
(ディスカッションテーマ:症例提示)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学
堤 寛
Yutaka Tsutsumi

ケース1.「乳腺の病理診断」

 あなたは乳腺外科医です。

 28歳の女性の右乳房のしこりがあり、画像上、乳癌の疑いがあります。あなたは乳癌ではないかと疑っています。

 生検をして病理診断部門に病理診断を依頼しました。病理室には病理医が5人いて、返ってきた答えは、乳頭状病変の良悪の判定保留で、3人が良性、2人が乳癌でした。電話で聞いたところ、担当の病理医はどちらかというと乳癌を考えています。

 あなたはこれから患者さんに病理診断を説明しなくてはいけません。

1. 5人のうち3人が良性と言っているので、こちらが信用できると思う。患者さんに乳癌ではないと説明する。
2. 病理診断ではっきりとは結論がでなかったが、今までの自分の経験を信じて当初より疑っていた乳癌と患者さんに説明する。
3. 病理診断の結果をそのまま報告して、今後の治療は患者さんと相談して手術するか、それとも経過をみるかを患者さんにまかせる。
4. とりあえず手術をして、術中迅速診断で良悪を判断する。
5. 病理診断の結論が出ないので、乳腺病理を専門とする病理医にHE標本や臨床データを送って判断してもらう、と患者さんに説明する

あなたの答えは?その理由はなんですか?

(                 )


ケース2.「インフォームド・コンセント」

 あなたは産婦人科医です。
 17歳の女子高生が月経のないことを主訴に診察にきました。
 
  触診にて下腹部に腫瘤がありました。検査したところ右卵巣腫瘍が疑われ、手術となりました。病理診断では、珍しい胚細胞腫瘍が卵精巣(ovotestis)から発生したことがわかりました。卵精巣は、卵巣と精巣が同時に存在するもので、真性半陰陽の所見です。外見的には普通の女の子です。卵巣はあるのだけれど妊娠は難しいかもしれません。

 非常に珍しい症例なので、是非論文にして学会で発表したいと思います。あなたは学会で発表するのに、17歳の女子高生にインフォームド・コンセントして承諾をとろうと思っています。

どう思いますか? 問題点はどこにありますか?

(                 )


ケース3.「知りたくない権利」

 あなたは病理医です。

 67歳の男性が胃癌で亡くなり、病理解剖が行われました。
癌は全身に広がっていました。骨盤臓器を調べたところ、思いもよらず、子宮がみつかりました。この男性患者は生涯男性として過ごしましたが、確かにこどもはいません。実は、真性半陰陽だったわけです。

 病理解剖診断書のコピーは遺族に渡します。診断書に子宮があったことを記述すべきでしょうか。
遺族に渡す診断書は、診断名と子宮の存在に関する考察の部分をはずした遺族用の書類を別につくるべきでしょうか?

あなたはどう思いますか?

(                 )


ケース4.「抜歯」

 あなたは虫歯になり、どうしても痛いため、歯医者で歯を抜きました。

 歯を抜き終わった後、歯科医はその歯を歯学部学生や歯科衛生士の歯を削る練習・実習に使いたいのでいただきたいとの説明を受けました。

 従来、歯科ではほとんど何の説明もなく抜去歯が実習用に使われてきたようです。ですから、この歯科医はインフォームド・コンセントをとろうとする良心的な医療者といえるかも知れません。

あなたは自分の歯を実習に使われてもよいですか?
また、このことについてインフォームド・コンセントをとることにどう思いますか?

(                 )


ケース5.「通販の化粧品」

 産婦人科では出産に伴って後産で胎盤が出てきます。

 胎盤(約500 g)は-20℃のフリーザーに生のまま凍結保存されます。この胎盤を処理するのに、専門業者に依頼してお金を払って処理しています。多くの場合、フリーザーは業者が医療機関に提供します。専門業者の数は少なく、ほとんどが独占的です。また、業者に胎盤を処理してもらう費用は各都道府県によって異なります(例:東京都2500円、神奈川県1700円、新潟県500円)。

 もちろん、病院が業者に処理費用を支払うのです。またどのように処理されているか、適切に焼却されているか、実は不明な点が少なくありません。

 通販でプラセンタエキス(胎盤から抽出した女性ホルモン=エストロゲン)を使った化粧品が堂々と売られています(1本\15,000程度)。おそらくは処理に出した生の胎盤から抽出されたものでしょう。もちろん、どこから出た胎盤かはわかりません。ただし、出産に際して、感染症の検査は全例に行われていますので、原料としての胎盤の安全性は高いといえます。むろん、胎盤はヒトIgGやヒトアルブミンの原料としても優れものです。

 この胎盤は検体といえるのでしょうか。本人の確認なしに化粧品として使い、お金儲けをしてよいのでしょうか。

あなたはどう思いますか?

(                 )


ケース6.「自分の検体の使用について」

 あなたは強い倦怠感のため、忙しい中仕事を休んで病院で診察を受けました。
血液検査やCT撮影を受け、肝臓に腫瘍があると言われました。そのため肝臓に針を刺して生検をして、結果によっては手術となるということの説明をうけました。

 担当医から、検査のためにとったあなたの検体を研究のために使用したいということで同意書にサインをするよう言われました。

病院のインフォームド・コンセント用紙に記述された内容は以下のごとくです。

この度私は、手術、組織診検査をうけることになりました。(中略)摘出された臓器・組織・細胞などの病理検体が医学教育、医学研究に使われることに同意します。

あなたは言われるがままサインしました。

あなたは自分の検体を研究や教育に使われるのにどこまで納得・同意できますか?

1.遺体  2.臓器 3.胎盤 4.細胞 5.血液
6.髄液 7.精液 8.歯牙 9.毛髪 10.爪
11.汗 12.尿 13.便    


その理由はなんですか?

(                 )


ケース7.「解剖臓器の粉末化処理」

 あなたのお父さんが癌で亡くなりました。

 死因・病態の究明のため、病理解剖に同意しました。病理解剖では、内臓の多くが摘出され、ホルマリン固定されたのちに病理学的検索が行われます。病理学的検討の終了後、保存期間が過ぎたホルマリン固定臓器は、通常他の検体といっしょに火葬場(斎場)で火葬されます。もちろん遺体の大部分は解剖後に遺族に返されます。

 病院からでる解剖臓器の臓器処理法に「好熱菌法」というものがあり、特殊装置が市販されています。技術的には生ゴミ処理によく使われる方法なのです。

 あなたのお父さんの分だけ処理漕に入れて処理すると一晩で土のようになり、肥料にもなると病院から説明されました。匂いはなく、感染性もありません。もちろん、お墓に埋めることができますし、川や山に戻すことも可能かも知れません。遺族の金銭的負担は一切ありません。

あなたならどうしますか?

1. 好熱菌法で処理してもらい、土を引き取る
2. 他の人の臓器といっしょに火葬にしてもらう。

それはどうしてですか?

(                 )


ケース8.「検体利用のインフォームド・コンセントと診察」

 あなたは大学病院の研修医なりました。

 病院には今日も患者さんがたくさん並んで待っています。初診の患者さんが来ました。あなたは診断に必要な検査をするために病理検体をとるのだけれども、その検体を大学病院で教育や研究のために使うために承諾してもらいたいと説明しながら、インフォームド・コンセント用の用紙を見せました。患者さんに承諾のサインをもらいます。

 この説明に時間がかかり、もう次の患者さんの診察をしなくてはいけない時間になりました。まだ要領が悪いなとは感じつつも、ともかく問診を早めに終わらせ、検査の種類だけを指示して患者さんに検査室へ行ってもらいました。今回は血液検査と細胞診検査の同意です。次回は肉眼写真撮影と生検に関してとらないといけないなと思いつつ、次の患者さんを迎えました。

インフォームド・コンセントをとることに時間がかかりすぎることに対して、あなたはどう思いますか?

(                 )


ケース9.「教科書に!?」

 あなたは医学生です。

 あなたは甲状腺機能亢進症(バセドウ病)になりました。非常に典型的な眼球突出があり、診察中に顔面の写真を撮られました。

 今度、ある病理の先生が教科書を出すことになりました。それにあなたの目の写真を載せたいと言っています。これからの医学生の教育のために協力してほしいということです。顔全体でなく、目の部分のクローズアップか横からの撮影写真を使いたいそうです。

あなたはどうしますか?

(                 )